株式会社　醉心山根本店

株式会社　醉心山根本店　 ■醉心の生い立ち■
創業は万延元年（一八六〇年）。明治の中期、当時約二十の銘柄を有していたが、当時の当主はこれを一つにまとめんと昼夜考え、夢枕に白髪の老人の言により『醉心（よいごころ）』と命名。以後「きょうかい３号酵母」の分離・技術面の向上等もあって有名になるに従い、『醉心（すいしん）』と呼ばれるようになる。
特に大正年間、全国酒類品評会で三回連続して優等賞を獲得し、「名誉賞」を受賞。醉心の名を馳せ、全国的なブランドとしての地位を確立。『横山大観 愛飲の酒』としても知られ、その信用と信頼を得て今日に至る。

■巨匠と蔵元との心の交流■
日本画の巨匠 横山大観（よこやま たいかん）は、一日二升三合は飲んでいたという酒仙だが、彼が最も愛飲した酒が三原の醉心だった。大観とのつながりが深かったのは第三代当主の山根薫（やまね かおる）社長で、出会いは昭和初期にさかのぼる。
醉心山根本店の神田の出店に、いつも酒を買いに来られる上品な女性がいた。どなたかと店の人が尋ねたところ、横山大観夫人だという。興味を持った薫が大観の自宅に伺い酒造りの話をしたところ、名人は名人を知るということか、たちまち意気投合して『酒造りも、絵を描くのも芸術だ』と言い、大観は大いに共鳴した。感動した薫は、一生の飲み分を約束した。
　この約束は、昭和三十三年（一九五八年）に大観が永眠するまで続いた。亡くなる直前、薬さえうけつけなくなっても、醉心だけはのどを越したという。
　醉心は大観の日々の生活に余りにも密着して居り、戦争が激しくなってからの醉心の運送には、大観も大変気を使っていた様子で、五島慶太運輸大臣に配送を依頼した事もあった。
　大観にとって醉心はまさに主食であり、米の飯は一日を通じて朝お茶碗に軽く一杯程度のもので、後は全部醉心のお酒でカロリーを取っていたといわれている。こう言うと大観は大酒飲みのように聞えるが、朝五時には起床して画室に入り、十一時頃に仕事を終えた後に酒となっていたようで、酒を飲んで筆を執る事は一度もなかった。本人曰く、｢私は大酒呑みではありません、ただ酒を愛するだけです。酒徒という言葉がありましょう。私はそれだけなのです。｣と。
　そして現在、醉心は理想の酒質として、大観が終生愛飲した『飲み飽きしない酒』を常に念頭においている。著名な酒造米『山田錦』や広島独自の酒米である『千本錦』などを用い、仕込み水には広島県福富町『鷹ノ巣山』山麓の伏流水（軟水）を使用するなど、積極的に商品開発に取り組んでいる。そして、広島独自の軟水醸造の伝統を守り、手造りと自然の力を活かすよう酒造りの基本に徹している。